「あるエピソード」 竹原淑夫
先日の賞味期限の会で、雰囲気が盛り上がっているなか、メンバーの鈴木健介さん
より次のようなエピソードの紹介がありました。
鈴木さんのご母堂が癌で入院されていた時、やはりメンバーの中川信吉さんのご尊
父の中川信夫さん(著名な映画監督で、去る4月生誕100周年記念会が催された)
がお見舞いをされた後で、書かれた次の詩のことでした。
『病気見舞』
東大病院新病棟に
彼の母を見舞った
ガンだという
二三ヵ月しか余命はないという
彼の母は
首をもたげて
私に挨拶しようとした
それは渾身の努力と見えた
その目に苦痛の色が漂う
私は三分間もいないで辞去した
帰途
彼と他の一人の男と三人で酒をのんだ
印度料理屋で
支那料理屋で
すし屋で
わが家の庭で
そして
夕暮れに散会した
その夜の食卓で
おれはすすり泣いたげな
(昭和41年5月4日アサ)
〜中川信夫詩集「業」より〜
竹原が朗読させていただきましたが、ご母堂の見舞い客に対する必死の礼節の思い、
監督の優しさと最後の”すすり泣いたげな” という伝聞法による照れ隠しを感じました。
鈴木さんはこの一件で監督に生涯ついていく決心をされたそうで、一同ほろりとした
エピソードでした。
是非みなさんもじっくりと読んでいただければ、中川ワールドが実感出来ることと思い
ます。
(2006/10)
nobuo nakagawa