『幸せな二日間〜酒豆忌のこと』       伊藤範子




平成17年7月19日、東京国立近代美術館フィルムセンターで行われた「酒豆忌」
中川信夫監督を偲ぶ集いに参加させていただきました。

「酒豆忌」のことを「映画監督 中川信夫」(リブロポート)で知った時、会場
の隅でもいいから、関係者の方々の話を黙って聞いていたい、監督と共に映画を
作っていた方々と接してみたい、と、痛切に思いました。その願いが叶ったのが、
5年前の「酒豆忌」の時でした。この時から関係者以外にファンも参加できるよ
うになり、私も声をかけていただき、初めて参加したのでした。

ところが、行ったとたん鈴木健介監督より、思ってもいない「挨拶と献杯を」と
言われ、頭が真っ白になってしまい、それからどう挨拶したのか、そして、その
日の参加者の方々がどのような話をしたのかまったく覚えていません。(すごく
楽しみにしていたのに・・・鈴木監督、あんまりです!)


でも、5年が経ち、そんなこともなつかしく思えるようになっていた今年、生誕
100年、楽しみにしていたお知らせが届きました。今度こそは、せっかくの機会
だから雰囲気を楽しみ、それぞれの方々の話を充分に聞こう、聞き逃すまい、そ
んな思いで参加しました。

まずは映画「丹下左膳・隻眼の巻」を鑑賞。確か桂千穂さんのインタビューで、
監督自身がもう一度見てみたいと、言っていた作品ですよね。そう思うと感慨も
ひとしおでした。そして、機会があれば、このような時代劇をもっと見てみたい
と思いました。

そして、小ホールで酒豆忌。皆さん和気藹々、本当に楽しそうに、また懐かしそ
うに話をしていました。その様子を見ているだけで、私自身、とても幸せな気持
ちでした。

そして、もう一つ楽しかったことは、若杉嘉津子さんとお会いできたことでした
。「東海道四谷怪談」の主演女優として、そして、ラストシーンの赤ん坊を抱い
た慈愛に満ちた美しいお岩さんとして、心に残っていた方だったので、あの映画
から46年も経った今も、美しくいてくれた事。きっと心が綺麗で、一生懸命に生
きているから、今もこんなに素敵でいられるのかな、と人生のお手本を見たよう
な気持ちがしました。

そして、北沢典子さん。お袖さんですが、私にとっては、「かあちゃん」の優し
い木村先生、「雷電」のおきん、その他、可憐な町娘、お姫様。北沢さんは、憧
れのお姉さんの様な存在でしたが、今も輝いて、とても素敵でした。又そのお二
人と一緒に写真をとってもらい感激でした。

その他、一人でいた私に気を使って、声をかけてくださった方、飲み物やら、食
べ物やら勧めてくださった方、又、中川監督からいただいたハガキを宝物のよう
にして持っていて、それを見せてくださった方、、又、中川監督の親戚の方々と
もお話することができました。

そこに又、鈴木監督から「ファンとして一言」と。今回は、素直に思っているこ
と、感じている事が言えたのでホッとしました。私は酒豆忌だけで失礼しました
が、今回感じた事は、参加者の皆さんが、似ていると言う事、共通したものを感
じました。真面目、一生懸命、誠実、優しさ、暖かさ、そして何より、人間好き
・・・中川監督に感じていたことを接したすべての方々にも感じ・・・そう言え
ば鈴木監督もそうですよね。



さて酒豆忌から二日後、わたしの職場(老人憩いの家・・・元気なお年寄りが、
サークル活動等で一日過ごす場)で「東海道四谷怪談」を上映しました。

先月より、月に一回映画上映をしています。ちなみに1回目は木下恵介監督の
「野菊の如き君なりき」。2回目は夏なのでお化け映画の名作を、と、映画館
で見る様な設備もなく、条件は良くなかったのですが、見終わった後、すぐ電
話をかけに行った人がいました。

映画の感想を話していた様なので、聞いたところ、地方にいる妹さんにかけた
とのこと。嬉しい事とか、何かあるといつも電話で話をするそうです。

「四谷怪談」は、ラストシーンでお岩さんが可哀想で泣いてしまった、と。い
い映画を見せてくれてありがとう、とお礼を言われてしまいました。

そこで、二日前にこの映画の監督を偲ぶ会があり、それに参加したこと、主演
のお岩さんと、妹のお袖さんをやった女優さんも来ていて、一緒に写真を撮っ
てもらったこと、今年、監督の生誕100年であること、この映画を小学5年
生の時に見て、初めて映画監督の名前を覚えたこと等、話したところ、彼女は、
中川監督の名前をすぐ覚え「いいお話を聞かせてくれてありがとう。写真がで
きたら見せてね」と。

その後、写真を見せたところ「くれる?」と言われ、三人で撮った写真をあげ
ました。裏に平成17年7月19日、「酒豆忌」中川信夫監督を偲ぶ集い、東京近
代美術館フィルムセンター、お岩・若杉嘉津子、お袖・北沢典子と書いて渡し
たところ「ありがとう、大切にします」と。

私が子供の時に見て、そして今まで映画が大好きでいるきっかけとなった映画
を、同じように感動して見てくれた人がいた、それは本当に嬉しいことでした。

このような事があると、単純に「人生っていいな」と思ってしまいます。


以上、幸せな二日間の報告です。最後に「酒豆忌」幹事の皆様、ありがとうご
ざいました。心から感謝いたします。


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