ラピュタ阿佐ヶ谷 特集上映  (2006年3月26日〜4月29日)


 
中川信夫・業の人間アラベスク  

           行こか戻ろか 天国⇔地獄

 

思春の泉

舞台は、秋、東北の農村。村の一団が各地から収穫に来る。この収穫期に他の村同士の若い男と娘の間に芽生える、はちきれるような恋模様を、「中川信夫・人間喜劇」の真髄をいっぱいに詰め込んで描いた作品。

 

妖艶毒婦伝 人斬りお勝

なんたる屈辱、ああ無念なり、お勝。極悪非道の悪代官に、全てをもぎ取られ、地獄の底まで突き落とされたお勝が、その借りを返すべく立ち上がる。二階建ての遊郭のセットの縦横無人の撮影は必見。

 

憲兵と幽霊

第二次世界大戦中、中国の漢口。部下が結婚する女性に心を寄せていた憲兵将校は、部下に機密書類の盗難の罪を着せ銃殺、その妻に近づく。そして、その部下の怨念が……。天地茂が冷ややかに演じる憲兵将校は、後の「東海道四谷怪談」の民谷伊右衛門役の下地か。

 

八百万石に挑む男

天一坊は将軍吉宗の御落胤か否か。その真実をめぐって、政争の具にされ、翻弄される若者の悲哀を突きつける。東映時代劇特有の派手なチャンバラ、立回りが一切ない時代劇。

野望を抱く伊賀之亮に旗本退屈男の市川右太衛門。

 

さすらいの旅路

心やさしい人ならば、きっと泣きます、歌謡メロドラマ。演歌歌手からスター歌手へ。その出世が、愛の破局へ。中川信夫が見せる愛のさすらい物語。抑えに抑えた男の友情の真骨頂、男と女の愛を越え、泣かせる人間ドラマ。

 

夏目漱石の三四郎

男にとって女は天使か、魔物か。大正時代の初め、大学に入った三四郎は東京に来た。三四郎は一人の女性と出会い、心惹かれていく。が、翻弄され、傷つけられる。三四郎の心情を詩情豊に描いた青春映画。

 

亡霊怪猫屋敷

江戸時代、凌辱された人妻が愛猫に恨みを伝えて自害した。その恨みが現代に甦る。現代をモノクロで、過去の時代をカラーで、交錯させる実験的映像表現。冒頭のシュールな長いワンカットはホラー映画の基本であり、秀逸。お見逃しなく。

 

雷電

江戸時代。浅間山のふもとの村に住む若者、太郎吉は地方巡業に来た相撲の一門に入り江戸へ。恋人の娘も、老中の屋敷奉公で江戸に。しかし、2人は死地へと追いやられる……。百姓一揆の群集シーン、河原の大俯瞰での詩情豊かな太郎吉と娘の愛の語らいは見事。

 

続雷電

相撲取りになった太郎吉が、出世して雷電の四股名を貰うまで。しかし、そのラストは、非情で、つらく切ない。ままならぬ運命の非情さは「新編 丹下左膳 隻眼の巻」「怪談 蛇女」「妖艶毒婦伝 人斬りお勝」に通じるものがある。

 

「粘土のお面」より かあちゃん

貧乏長屋のブリキ職人一家の逞しく生きる姿をユーモアとペーソスを交えて、シリアスな目でとらえた社会ドラマ。カメラをデーンと構え見つめた、望月優子と伊藤雄之助の夫婦のやり取りは見応えがある。警官役の宇津井健にフランス国歌を歌わせるのも憎い。

 

私刑(リンチ)

昭和の初め、好きな相手と結婚するためにやくざの足を洗った男の生々流転。長い刑務所暮らしから出所したのは終戦まもなく。初老の男となっていた。奇しくも昔のやくざたちと出会い、愛する者たちを守るために男は戦う。戦争を挟んで時代の変化の描写がいい。

 

怪談 蛇女

怪談のオブラートに包んだ弱者いじめへの批判。明治初期、横暴な地主に土地を取り上げられた一家が過酷な状況に追い込まれ、死んでいく。一家の妻は生前、地主に殺されそうになった蛇を助けた。地主一家を小作人一家の亡霊が悩まし、蛇の影がつきまとう。

 

新編 丹下左膳 隻眼の巻

渡辺邦男、山本薩夫、萩原遼たちが監督したシリーズ第三篇。主君の裏切りで、右腕を失い、さらにこの篇で右眼を斬られ、白衣に身を包んだ隻眼隻手の丹下左膳が誕生。逆境に落とされていく左膳の非情な世界に、高峰秀子の町娘との暖かな交感が救いとなる。

 

石中先生行状記 青春無銭旅行

東北の小都市にのんびりと暮らしていた石中先生が、中学5年の夏休み、友人とした無銭旅行の話をはじめた。この天衣無縫な旅の中で出会うおかしな大人たち。そんな大人には決してなるまいと二人は思ったという、まさに中川信夫流天衣無縫の青春喜劇。

 

エノケンの頑張り戦術

戦前、中川信夫が手掛けたエノケン物の喜劇の1作。防弾チョッキの会社に勤めるライバル同士。家も隣りなら、家の造りも同じ。毎朝同時に家を出て、先を競って出勤。意地を張りどうしの犬猿の仲。果たして2人は……。喜劇演出の面目躍如。

 

地 獄

当時の新東宝社長、大蔵貢に「地獄極楽」を作るといって、[地獄]だけで作った作品。天国はラストにちょっぴりと、中川信夫流の救いで……。人間の業を思い知れとばかりに、低予算ではあっても、やりたいことを八方破れにし、さまざまな実験が込められた大作。

 

 

日本残酷物語

小森白、高橋典と共同監督をした初のドキュメンタリー作品。アイヌの熊祭りなどの日本の風習、流氷、結氷などの自然現象、交通地獄などの社会問題、ゲイ・バーの生態などの風俗といった当時の日本の残酷世界を見せてくれる。

 

番場の忠太郎

股旅物、長谷川伸の「瞼の母」です。5歳の時に別れた母を捜す旅がらす、忠太郎。母との出会いの場面で、忠太郎の若山富三郎の抑えた心と、母の山田五十鈴の揺れ動く気持ちの芝居のアンサンブルは泣かせます。中川信夫の人への温もりが伝わってくる。

 

怪異談 生きてゐる小平次

登場人物3人。団十郎を目指す役者の小平次、近松門左衛門を目指す太鼓叩きの太九郎と女房のおちか。3人は幼友達。小平次がおちかを口説いたことから、3人の関係が崩れ、太九郎は小平次を殺してしまう。しかし……。男と女の愛憎劇を怪異談に仕立てた遺作。

 

東海道四谷怪談

永遠のテーマ、色(愛)と金、名誉の欲望に翻弄される人間の業の深さを描く。罪の呵責に揺れ動く伊右衛門の心を日本的様式美の映像と実験的試みで表した心理的リアリズムは見事。子どもを抱いた若杉嘉津子の美しいお岩が昇天するラストは中川信夫の優しさを象徴。



TV作品
 

プレイガール 怪談 屋根裏の悪霊

レギュラー監督として中川信夫64歳から71歳まで手掛けた56作の1作。1時間枠のテレビドラマを、撮影前に1000カットで仕上げると宣言、実行。しかし、テンポは決してチャカチャカしていない。見応えある。冒頭、自ら出演、声も聞かせる。

 

平四郎危機一発 いたずら天使

テレビ映画、宝田明主演のアクション物シリーズの1作。サイケデリックな映像感覚とスピーディなカメラの動き。その映像からは、当時(1960年代後半)の時代が読み取れる。

 

ウルトラマンレオ さようならかぐや姫

ウルトラマンシリーズを手掛けた2作の1篇。ご存知「かぐや姫」の話を壮大な宇宙の世界で描く。親子の絆、その別れの情感は、いつも子を思う中川信夫の心情を吐露。

 

ウルトラマンレオ  レオ兄弟対宇宙悪霊星人

「さよならかぐや姫」に続くウルトラマンシリーズの1篇。宇宙にだって悪霊はいるんだ。宇宙を舞台に、怪談怪奇映画の監督としての腕を十二分に発揮する。

 

水滸伝 小旋風と黒旋風

中国、大宋の時代。腐敗し悪徳政治はびこる世に異を唱える英雄豪傑の勇者たちが梁山泊に集まり、時の権力者たちと戦う。及時雨の宋江、小旋風の柴進、黒旋風の鉄牛が梁山泊と交わっていくエピソード。権力に組せず清廉潔白な人間像に心寄せる中川信夫の心意気。

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nobuo nakagawa