中川信夫詩集・業
「年 齢」
六十七才の秋
夜半めざめて
おれが今死んだらと
いつものことをふと思う
六十七才
後顧の憂いなければ
何で夜半こんなことを考えるのだろう
六十七才
今にはじまったことではない
死ぬまで働いて
どこかでがっくり か
いやだなあ
しかし働ける間はいい
歯も欠け
外貌の老醜が
社会から疎外される時
おれはどうなる
おれの家はどうなる
それはむろんおれだけの問題ではないが
さしずめおれはどうなる
巷に餓えて
どうなる
足もとに迫りつつある
この老いの日々を
どうするのだ
けんめいに働く他はない
働けるうちは働く
しかし六十七才は若くない
おれの才能
おれの力
おれの位置がどこまで保てるか
力量だけの社会ではない
老いた外貌を或いはうけつけない社会を
思うとゾッとする
しかし
働かねばならぬ
力をふるって
(昭和47年10月26日、午前11時24分、くもり)