中川信夫詩集・業
「クレヨンの汽車」
おさな児は
青きクレヨンを父にあたえ
いくたびも
いくたびも
汽車をかけという
おさな児は
その母にもまた
つねずね
汽車をかかせたれば
父は
母の描ける
汽車にならいて
簡略なる線を交じう
おさな児のせがむままに
父は
幾列車をかきつらねたり
稚拙なる
クレヨンの汽車は
煙をはき
ゆがみながら
ぽっぽっぽ しゅっしゅっしゅ
ぽっぽっぽ しゅっしゅっしゅ
(昭和22年5月18日ヒル11時)