生誕百年・中川信夫監督の十二作品が特集上映

<第6回東京フィルメックス>
                             鈴木健介(映画監督)




生誕百年、中川信夫監督の作品が11月19日(土)から27日(日)まで第六回東
京フィルメックスで特集上映されます。
 

人間の永遠のテーマ、色(愛)と金(出世、名誉)の欲望に翻弄される人間の業の
深さを描いた代表作二作、民谷伊右衛門を天知茂がお岩を若杉嘉津子が演じる
「東海道四谷怪談」(1959)と、天知茂と沼田曜一が善と悪の表裏一体を演じ、さ
まざまな実験を試みた「地獄」(1960)。

そして、恐怖とどんでん返しの表現のお手本ともいえる冒頭や現代部分をモノ
クロで過去の時代劇部分をカラーで表現した「亡霊怪猫屋敷」(1958)。

また天知茂演じる日本製ヴァンパイア「女吸血鬼」(1959)などの怪談怪奇映画。


東京下町の貧乏長屋に住むブリキ職人の一家を明るく強く描いた「「粘土のお面
」より かあちゃん」(1961)。宇津井健演じる警官に、フランス国歌「ラ・マル
セイエーズ」を口笛で吹かせています。この作品を貫いているテーマ曲ともい
えます。


また、青春を謳歌させたユーモアたっぷりの文芸作「思春の泉」(1953)。


身を持ち崩し、人を殺してしまう若杉嘉津子演じる悪女の顔の中に、妻として
母としての哀しみを描いた「毒婦高橋お伝」(1958)。


河童の漫画家で知られる清水崑の図案の書割を全編背景にして作った実験作「
エノケンのとび助冒険旅行」(1949)。鈴木清順監督の最近作「狸御殿」の日本
画の書割を背景にCGを使って演じられるシーンがありますが共通した世界が
見られます。


嵐寛寿郎演じる、やくざから足を洗った男の日陰の人生をサスペンス的に描い
た社会派ドラマ「私刑(リンチ)」(1949)。


中川作品の中では数少ない歌謡恋愛ドラマ「さすらいの旅路」(1951)。


そしてお得意の時代劇「人形佐七捕物帖 妖艶六死美人」(1956)は後のお岩役
の若杉嘉津子が中川監督と本格的に仕事をした切っ掛けの作品です。

そして、「妖艶毒婦伝 人斬りお勝」(1969)は主人公の宮園純子演じるお勝の
ショッキングな屈辱からドラマが展開します。三階建ての女郎屋のセットを縦
横に撮影したシーンは見所の一つです。


以上十二作品ですが、幅広いジャンルの仕事を中川監督はしていることにお
気づきでしょうか。

中川信夫というと怪談怪奇映画の監督として知られるようになっていますが、
怪談怪奇映画は全九十七作品のうち八作品しかありません。

では、中川ワールドとは何か……それは、幅広いジャンルの作品の中に共通し
た視点があります。探してみてください。

また、「東海道四谷怪談」の中に中川監督の声が入っています。
どこでしょうか……答えは、鈴木健介編著「地獄でヨーイ・ハイ!」(ワイズ出
版)に書いてあります。

                                        


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